このブログについて

このブログは note にてほしなが AEW について公開していた記事を移転させたブログです。

note で公開していた記事はすべてこちらに再掲しています。また今後の新規記事もこちらで公開します。

今回の移転は note および運営母体の cakes のメディア倫理に対して看過しがたいものを感じたための判断になります。ご了承ください。

才能、魂の炉、キングストンの ROH 世界王座挑戦について

心臓と脳の間には、魂の炉がある。これは化学の問題だ。
私たちは皆、内側に炎を秘めている、火事のように燃え上がることもあれば、くすぶって消えてしまうこともある火花。
お前の炎は溶鉱炉のように燃え上がる、それを正しく扱うだけでいい。その燃料を計ればいい。……その炉にポプラの欠片を放り込めば両膝が焼けるように感じるだろう、しかし桑の薪で満たしてやれば炎を長く強く保つことができる。それがお前の追い求めるべきことだ……。

お前の炎はまだ燃えているか?
– Davide Pascutti “Fausto Coppi, l’uomo e il campione” (未邦訳)

お前は俺が見てきた中で最も才能を無駄遣いしている男だ。お前とは若いころに出会った。お前は目に炎を宿した男だった。その炎をつかみ取ることだってできたのに、お前は自己憐憫に耽っては全部台無しにしてきた、何度も、何度も、何度もだ!

もし何かの物語の中で、繰り返し語られる言葉、モチーフ、そういうものがあれば、それは物語の主題、本質である、そう捉えられるのが当然だ。

そしてエディ・キングストンが AEW で語ってきた物語は「才能」の話だ。才能を生かしきれずに来た、一人の男の物語。

続きを読む “才能、魂の炉、キングストンの ROH 世界王座挑戦について”

一つの時代の終わり、二つの道筋の交わりについて

だがひとつひとつのできごとには───つまり生きた行動、疑いようのない行動というものにはだな、何かわからんが筋道の通ったものがその奥にある。
– ハーマン・メルヴィル『白鯨』

魂がサンノゼから帰ってこない。

続きを読む “一つの時代の終わり、二つの道筋の交わりについて”

AEW のフェイス/ヒールについて説明しようとしたらQTマーシャルの話になった件

1月22日に行われたノアのグレート・ムタファイナル “Bye-Bye” 。グレート・ムタが AEW に出現した縁もあってスティングとダービー・アリンが参戦。

グレート・ムタとは WCW 時代のライバルにして盟友というスティングの参戦はある程度予測されていたが、今回ダービー・アリンが初来日ということで AEW ファンとしてはついに!という感じだが、AEW とはこれまで縁の薄いノアからすると「未知のプロレスラー」。

そして事件は起こった。

「現在 AEW ではヒールとして活躍、ダークヒーローとして活躍」

「今人気急上昇のヒールレスラー」

…………。一つ目、一文の中で矛盾してるって思わなかったのかな。

まずノア側の事情を鑑みると、これまで直接関わりのない団体であることに加えグレート・ムタが顔を出したのは一回だけということで、AEW で起こっていることは正直見ていないだろう。ましてやこうしたテレビやSNSを担当する広報となると上から降りてきた情報をそのまま使うだけ( RAMPAGE ネタバレを嬉々としてRTしてたし……) 出演されているのも武藤啓二に関することならともかく AEW の事情にはお詳しくないのだろう方々で、グレート・ムタは絶対的悪なのでその彼と組む二人をベビーフェイスとして扱うのは難しいのだろう。要は悲しいすれ違いでしかないのだが……。

以上を鑑みた上で

クソデカ文字で書いておきますけど、これは完全なる事実誤認です。ダービー・アリン&スティングは絶対的ベビーフェイスですからね!!!!

しかし AEW のフェイス/ヒール概念がぱっと見わからないのも納得できる。

そもそも AEW においてフェイス/ヒールというのはあまりはっきり分かれていない。グラデーションに近く、さらに対戦相手や状況によって立場が入れ替わるタイプの選手やユニットもいる。

では AEW においてフェイス/ヒールをどうやって見分けたらいいのかというと登場するトンネル(2023年から新セットになり、選手の入場はパネル脇からに変更)の方向でわかります。

……いや本当なんです。これの登場する方向でフェイスかヒールかわかるんです……。真ん中から出てくるやつとかそもそもトンネルからじゃなくて客席から出てくるやつがいる? いろいろあるんだよ!

ヒールサイドから堂々と出てくるブライアン・ダニエルソンはヒール、いいね? ちなみにダニエルソンは一応ベビーフェイスだけど、そもそも強すぎるわ試合でやることがえげつないわで、もうあいつヒールでいいだろ……みたいな扱いです。

そうはいっても何かしらフェイス/ヒールの決まりごとがあるだろうと思われるかもしれないが、強いて言うなら「先に悪いことをするのがヒールで、仕返しするのがベビーフェイス(ただし仕返しは倍返しでもよいとする)」といったところか。なので決着戦だけ見ると「ひどいことをしている方がヒールに見えるが、仕返ししているだけなのでベビーフェイス」という事態が起こる。これは継続的に AEW を見ていないとわからないポイントだし、ひどいことをしないのがベビーフェイスという考え方からすると理解しづらいだろう。

それでも出てきたらブーイングして間違いのない、絶対的ヒールというのはいる。MJF ……と言いたいところだが、Full Gear 2022 前には観客から声援を受けることもあった(さらに本人がヒール的に振舞うことへの葛藤を口にするという「単純明快なヒール」像から抜け出しそうになるシーンもあった) MJF でさえ支持されるときもある AEW において絶対的ヒールの地位に君臨する男。

その名はQTマーシャル。

続きを読む “AEW のフェイス/ヒールについて説明しようとしたらQTマーシャルの話になった件”

“7☆” FTR がやってくる 後編

名実ともに「世界最高のタッグチーム」となった FTR は、当然ながら AEW でも一番の後押しを受ける最強のフェイスタッグに。だからってダンハウゼンは「俺とタッグ組んでくれないカナ~」とか謎の交渉力を発揮しないでほしい。何事かと思ったわ。

それはともかく、スワーヴ・ストリックランド&キース・リーの「スワーヴ・イン・アワ・グローリー」とチーム・タズのリッキー・スタークス&パワーハウス・ホブスがにらみ合う中放った「ベスト・タッグチーム」という言葉に反応して現れたのは当時のタッグ王者ヤング・バックスだったが、観客がその言葉に思い浮かべるタッグチームは違った。

続きを読む ““7☆” FTR がやってくる 後編”

“7☆” FTR がやってくる 前編

FTR がやってくる。

見に行けないんですけどね!!!

いや本当、IWGP タッグ王座を持っている以上来日して試合をするのは時間の問題なので、遅かれ早かれ血涙を流す羽目にはなるとは思ってたけど、実際来るとなると悔しさが半端ないですね……。

元々は MJF 率いるヒールユニット「ピナクル」に所属していた FTR だが、いつの間にか AEW 最強のフェイスタッグに。その経緯が同時にキャリア七冠の “7☆(セブン・スター)” (WWE NXTタッグ王座、WWE RAW タッグ王座、WWE SD タッグ王座、AEW 世界タッグ王座、AAA 世界タッグ王座、ROH 世界タッグ王座、IWGP タッグ王座)達成の道でもあるので、今回はそれをかいつまんで説明してみます。一言でまとめると「 FTR はいいぞ……尊い……」なんですけど。

続きを読む ““7☆” FTR がやってくる 前編”

三つの better 、または空白を埋めるということについて

ジョン・モクスリーvs.アダム・ペイジが、決まった。

DYNAMITE 開始以来、意外となかったシングルでの対戦。待ち望まれたドリームマッチであり、さらにこの対戦の後には王座挑戦権を持つ MJF が待ち構えているという構図。ペイジは王座を巡ってモクスリーと必ず対峙するだろうこと、そして AEW 謹製のチャンピオンであるペイジから王座を奪うのはこれまた AEW でヒールとして頭角を表す MJF であるはず、という予想に違わぬ展開で、私としては願ったり叶ったりだ。

続きを読む “三つの better 、または空白を埋めるということについて”

“I’m the devil” 、再び物語の持つ毒について

かくして人は、悪魔に魅入られるのか、と思った。

嫌な予感は、性急なまでの統一王座戦から始まった。

クリス・ジェリコとの暫定王者戦を防衛したジョン・モクスリー。そこに襲いかかったジェリコ感謝協会( JAS )をブラックプール・コンバット・クラブ( BCC )とキングストン&オルティスが追い払おうとしている中、さらに姿を見せたのは怪我で欠場していた第5代王者CMパンク。

当然その先にあるのは統一王座戦だが、「禁断の扉」以降団体のトップとして、そして何よりもオリジナルメンバーとして AEW を引っ張ってきたモクスリーが、そうやすやすとCMパンクに対してリスペクトを示すわけもなかった。

続きを読む ““I’m the devil” 、再び物語の持つ毒について”

龍退治、それから蛇の玉座について

どんなドラゴンだって知りやしない、自分がいつ倒されるのかなんて。
知っていたら、そんなことは起こらない。

以前にも少し書いたように、ブライアン・ダニエルソンはダニエル・ガルシアをかなり気に入っており加入早々に「彼は俺の息子ってことで」とジョークをかましたり、Blackpool Combat Club をやろうとモクスリーに持ち掛けた際にはリー・モリアーティ、将来加入することになるウィーラー・ユータに並んでダニエル・ガルシアを期待の若手の一人に挙げていた(参照:「ウィーラー・ユウタに注目していけという話」 ) しかし周囲の予測とは真逆にガルシアは「スポーツエンターテイメント」を標榜するジェリコ感謝協会( JAS )に加入、自ら「スポーツ・エンターテイナー」を名乗りジェリコの元で新たな一面を身に着けようとしつつあった。

続きを読む “龍退治、それから蛇の玉座について”